金融の世界に飛び込んだ日:価値観の違いに戸惑い、消費財との相性を痛感した初日の記憶

2025-07-12
金融の世界に飛び込んだ日:価値観の違いに戸惑い、消費財との相性を痛感した初日の記憶
日本経済新聞

1988年2月1日、私はシティバンク日本法人に入社しました。しかし、初日からその世界は私を戸惑いの淵に突き落としました。「スプレッドは?」「今日のLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)は?」聞き慣れない金融用語が飛び交い、前日まで私が経験してきた世界とは全く異なる雰囲気に圧倒されたのです。

新入社員として、期待と不安を抱きながらの初出勤でした。しかし、その日の出来事は、私にとって初めての転職という大きな転換期における教訓となりました。「頭の切り替えのために日にちを空ければよかった」と、後悔の念が湧き上がったのです。

配属先は企業金融部門。上司の米国人から簡単なオリエンテーションを受けた後、すぐに顧客対応へと投入されました。そのスピードと専門性の高さに、改めて金融業界の厳しさを感じました。英語でのコミュニケーションも必須であり、言葉の壁もまた、戸惑う原因の一つでした。

金融という世界は、数字とリスク、そして複雑な取引で溢れていました。それらは、私にとって馴染みの薄いものでした。私はこれまで、より人間的な繋がりや、消費者のニーズに寄り添うような仕事に魅力を感じてきたからです。金融という、数字至上主義の世界は、私の価値観とは少し違っていたのです。

この経験を通して、私は自身の適性について深く考えるようになりました。金融業界は、非常にやりがいのある仕事であることは間違いありません。しかし、私自身の興味や得意分野は、金融よりも消費財、つまり人々の生活を豊かにする商品やサービスにあることを痛感したのです。

この初日の経験は、その後の私のキャリア形成において、重要な指針となりました。金融業界での経験は、ビジネスの基礎を学ぶ上で貴重なものとなりましたが、最終的には、自身の価値観に合った道を選ぶことの大切さを教えてくれたのです。

振り返れば、あの日の戸惑いは、私にとって成長の糧となった出来事でした。価値観の違いに戸惑いながらも、様々な経験を通して、自分自身を見つめ直し、より良い未来を切り開くための第一歩となったのです。

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